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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(れ)742号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

弁護人芳井俊輔の上告趣意第一点について。

繊維製品配給消費統制規則(以下単に規則と称する)第一〇条は「指定繊維製品ノ販売其ノ他売渡ヲ業トスル者」が、他の同業者から指定繊維製品を譲受けんとする場合、これに制限を加えた規定であることは所論のとおりである。

原判決は「被告人は縫製業を営んで居る者であるが、法定の除外事由がないのに・・・・・・野中嘉平方に於いて、繊維製品配給消費統制規則所定の譲渡資格のない同人から販売の目的で同規則所定の指定繊維製品である綿絨一反四五碼もの二反を合計金一万二千六百円で買受けた」と犯罪事実を確定した上、規則第一〇条を適用しているが、原判示事実から被告人及び野中嘉平がいずれも「指定繊維製品ノ販売其ノ他売渡ヲ業トスル者」にあたることを知りうるであろうか。

凡そ営利の目的をもって継続反覆して指定繊維製品の販売をなす者であれば、規則にいわゆる「指定繊維製品ノ販売其ノ他売渡ヲ業トスル者」にあたると解すべきであって、其の者が他に主たる営業を有すると否とは、これに影響を来さないものというべく、論旨が主張するように敢て自己の名をもって営業として登録しておる小売業者又は卸売業者に限る理由を特に見出することができない。

ところで被告人が縫製業者であっても、同人が直に繊維製品の販売乃至売渡業者にあたるとはいえないのみならず、又被告人が判示野中嘉平から販売の目的で綿絨二反を買受けた一回の行為があったことによって被告人を右の業者であると解することの無理なことも当然であろう。もっとも被告人が営利の目的をもって指定繊維製品を他に継続的に販売しようと企てた上、買受行為に及んだという特段の事情が窺えれば、規則第一〇条違反として処罰しうるのであろう。しかし原判示事実及び挙示の証拠によるも右の事情があったか、どうかを知ることができないので被告人の罪責を判断するを得ないことになる。

要するに原判決は法令の解釈を誤ったか、乃至規則一〇条違反の判示として理由不備の違法があるものというべきであるから爾余の争点について判断を加えるまでもなく、原判決は到底破棄を免れない。

よって上告を理由ありとし、旧刑訴法四四七条、第四四八条ノ二を適用して主文のとおり判決する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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